建設業の退職金制度、建設業退職金共済制度(建退共制度)を詳しく解説

コラム

建設業は、現場ごとに雇用の種類や事業所の規模などが様々なので退職金制度も他の産業とは異なっています。建設業の退職金制度である「建設業退職金共済制度(建退共制度)」を中心に退職金の相場、メリット、一人親方の注意点を解説します。

建設業退職金共済制度

建設業退職金共済制度(建退共制度)は、中小企業退職金共済法に基づいて事業主が従業員のために退職金を積み立てることを目的とした公的な制度です。建設業は現場が変わって事業主が変わることが多いので一つの事業所に長く勤めなくても働いた日数に応じて退職金が受け取れるように業界として退職金を積み立てる仕組みとなっています。

建退共制度の目的は、建設労働者の福祉の増進、建設業における労働力の確保・定着、建設業の健全な発展で、制度は建設業界の特殊性を踏まえて労働者が安心して長く働ける環境を整備して業界全体の発展に貢献することを目指しています。

加入者

建設業を営む事業主と、その事業主に使用される建設労働者(常用労働者、日雇労働者問わず)が対象です。

掛金

事業主が、労働者の働いた日数に応じて掛金(共済証紙)を購入して共済手帳に貼り付けて積み立てます。掛金は全額事業主負担で労働者は負担しません

掛金の種類と金額

掛金は共済証紙で管理されて1日あたりの掛金は2025年7月現在、320円です。

退職金の受取

労働者が退職する時点で建退共本部へ請求して、それまでの積立日数に応じた退職金が支払われます。短期間で複数の建設会社を変わったとしても、それぞれの会社で積み立てられた掛金が合算されています。

国の補助

国から新規加入事業主に対する掛金の一部補助や、長期加入者への掛金加算などの支援をしています。

退職金の相場

建退共制度を利用している場合は、その積立期間と掛金によって算出されます。

建退共制度で支払われる退職金は、以下の計算式で算出されます。

退職金額 = 納付された掛金総額 + 運用利息 +(国からの加算金)

掛金320円で30年間(年間250日勤務と仮定)積み立てた場合、

年間掛金:320円 × 250日 = 80,000円

30年間の掛金総額:80,000円 × 30年 = 2,400,000円

これに運用利息と国からの加算金が加わりますが、退職金の額は勤続年数だけでなく、実際に共済証紙が貼付された日数で計算されます。

建退共制度のメリット

メリット

労働者のメリット

会社が変わっても通算されます。共済手帳を引き継げば掛金が通算されて退職金が受け取れます。

その会社が倒産しても建退共本部から直接退職金が支払われるので未払いはありません

国が運営する公的な制度なので安定した制度運用が期待できます。

勤続年数に関係なく、共済証紙が貼付された日数に応じて退職金が計算されるので退職金額がわかりやすい。

会社側のメリット

従業員への福利厚生を充実させることで、優秀な人材の確保と定着ができます。

建退共制度に支払った掛金は、法人税法上、全額損金として算入できるので節税効果が期待できます。

退職金の計算や管理は建退共本部が行うので事業主の事務負担が軽減されます。

建退共制度に加入していると公共工事の入札で評価されることがあります。

国から新規加入事業主に対し、掛金の一部助成があります。

建退共制度は義務化される?

建退共制度は建設業を営む事業主にとって義務ではありません

任意加入制度ですが、建設業の労働者の処遇改善や人材確保から、建退共制度が注目されています。公共工事では、建退共制度への加入が推奨されており、一部の自治体では入札条件となっていることもあります。

その他の建設業の退職金制度

企業型確定拠出年金(DC)

事業主が掛金を拠出して従業員自身が運用する年金制度です。運用成績によって将来の受取額が変動します。

確定給付企業年金(DB)

事業主が掛金を拠出して将来の給付額があらかじめ決められている年金制度です。運用リスクは事業主が負います。

一人親方(個人事業主)の注意点

一人親方、個人事業主の場合、事業主なので建退共制度の対象にはなりません

小規模企業共済制度

国が運営する小規模企業の経営者や役員、一人親方などの個人事業主を対象とした退職金制度です。掛金は全額所得控除の対象となり、将来の事業の廃止や退職時に共済金が支払われます。

iDeCo(個人型確定拠出年金)

自分で掛金を拠出して運用する年金制度です。掛金が全額所得控除の対象となり、運用益も非課税です。将来の年金資産形成に有効です。

国民年金基金

国民年金に上乗せして給付を受けることができる公的な年金制度です。将来の年金受給額を増やしたい場合に有効です。