一人親方で確定申告をしていないとか、すべきか?というお問い合わせがありますが、確定申告をしていないと税務調査に入って追徴課税される可能性は高くなります。毎年、何千~何万の規模で税務調査されていますし、多くは追徴課税を受けています。詳しくご説明します。

一人親方とは
一人親方とは、建設業や運送業などで、労働者を雇わずに自分一人、あるいは家族のみで事業を営む個人事業主のことです。法律用語ではなく呼称であって、建設業などで従業員を雇わず自ら仕事を請け負って事業を行う個人事業主のことです。建設業界でよく使われる言葉で、大工、左官、とび職、電気工など、技能を持つ職人が独立して事業を請け負っている人のことです。
「親方」という言葉が含まれますが、人を雇わない点が一般の事業主とは異なり、労働保険上は「労働者」ではなく「事業主」として扱われます。ただし、労災保険については、特別加入制度を利用して加入できます。
確定申告について
確定申告とは、1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得(収入から経費を差し引いた額)の金額と、それに対する所得税の額を計算して税務署に申告・納税する手続きです。個人事業主は売上・経費の集計(記帳)を行って確定申告書を作成して税務署へ提出します。スマホやパソコンでe-Tax(電子申告)を使えば手続きが簡単になります。
確定申告の義務がある人
個人事業主の場合、次のいずれかに該当する場合は原則として確定申告が必要です。
・事業所得や不動産所得など、各種所得の合計額から所得控除(基礎控除など)を差し引いた残額に税額がある人
・公的年金等の収入金額が400万円以下で、かつ年金以外の所得が20万円を超える人(一人親方の場合は事業所得がこれに該当することが多い)
・給与を2か所以上から受けていて、かつ給与の全部が源泉徴収の対象となる場合において、年末調整をされなかった給与の収入金額と給与所得および退職所得以外の所得金額との合計額が20万円を超える人
一人親方で事業所得がある場合、多くの方が申告の義務があります。特に、所得(売上から経費を引いた利益)が基礎控除額(令和5年分で48万円)を超える場合は、原則として確定申告が必要です。

確定申告の白色申告と青色申告
個人事業主の確定申告には、「白色申告」と「青色申告」の2種類があります。
| 項目 | 白色申告 | 青色申告 |
|---|---|---|
| 事前届出 | 不要 | 「青色申告承認申請書」を提出 |
| 記帳方法 | 単純な記帳(簡易な帳簿) | 複式簿記または簡易な記帳 |
| 特別控除 | なし | 10万円または最大65万円の青色申告特別控除 |
| 主な特典 | なし | 赤字の繰り越し(3年間)、青色事業専従者給与、一括償却資産など |
白色申告は記帳の手間が少ないですが、税制上の優遇措置がほとんどありません。青色申告は記帳の手間が増えますが、最大65万円の青色申告特別控除といった節税メリットがあります。
一人親方で白色申告したほうがいい人
節税メリットが大きい青色申告が推奨されますが、最初は白色申告から始めることも考えられます。たとえば、次の場合です。
・事業規模がごく小さく、所得が基礎控除額(48万円)に近い場合、所得が低ければ、青色申告特別控除のメリットが相対的に小さくなります。
・経理に関する知識がなくて記帳に手間をかけたくない場合、複式簿記の知識がないとか経理業務に時間を割けないため、まずは簡易な記帳で済ませたい場合です。
・開業初年度で、とりあえず申告の形式に慣れたい場合、青色申告の準備が間に合わなかったり、翌年以降に備えて簡単な方法から始めたい場合です。
ただし、最初は白色申告であっても節税効果の高い青色申告への切り替えをしたほうがよいでしょう。今は会計ソフトなども充実しており、青色申告も比較的簡単にできますています。
個人事業主が確定申告しない場合の税務調査
税の無申告は、違反の一つであり、税務調査を受ける可能性があります。
調査が入る可能性が高まる理由
個人事業主(一人親方)の場合でも仕事を依頼した発注元(元請けの建設業者など)は、支払った報酬について「支払調書」を税務署に提出しています。税務署はこの情報と個人の申告状況を照合しています。
申告義務があるにもかかわらず申告しない行為(無申告)は、単純な記帳ミスや計算ミスよりも悪質性が高いと判断されています。
個人事業主への税務調査の統計実績
国税庁は、個人事業主(特に所得税)に関する税務調査の実施状況を毎年公表しています。これらの統計から、税務調査が「無申告者」を重視していることが分かります。
次の国税庁の発表のとおり毎年何千件の無申告の調査が実施されています。
令和4事務年度の主な実績(国税庁発表より抜粋)
無申告者に対する調査では、10,240件もの調査が実施されています。1件あたりの追徴課税額(本税+加算税)は約542万円になります。
無申告者に対する税務調査は件数が多く、1件あたりの追徴税額が申告者に対する調査(約236万円)の倍以上となっています。無申告者に対しては、本来納めるべき税金だけでなく、加算税や延滞税が課されています。
令和5事務年度の主な実績(国税庁発表より抜粋)
令和5事務年度の報告では、無申告者に対する実地調査件数は所得税で5,274件、消費税で7,827件などの詳細が公表されています。
確定申告しない場合の税務調査のリスク
確定申告をせずに税務調査を受けた場合、税金を納めるだけでは済まされず、重大なリスクがあります。
追徴課税
本来納めるべき税金(本税)に加えて加算税と延滞税が課されます。
・無申告加算税
期限内に申告しなかったことに対するペナルティです。原則として、納付すべき税額の15%または20%が加算されます。税務調査の通知が来てから申告しても、この加算税は課されます。
・重加算税
意図的に所得を隠蔽したり仮装したりしたと判断された場合に課される重いペナルティです。納付すべき税額の40%が加算されます。
・延滞税
納付期限の翌日から納付する日までの日数に応じて課される利息に相当する税です。税率が高く、放置期間が長いほど雪だるま式に増えます。
社会的信用の低下
税金の滞納や追徴課税を受ける事実は、融資や許認可の審査に影響があり、事業を継続するのに社会的信用を損ないます。金融機関からの借り入れや、行政からの事業関連の補助金申請などで不利になる可能性があります。
時間と労力の浪費
税務調査が入ると、過去数年分の帳簿や資料の提出を求められて税務署の担当官とのやり取りに多くの時間と精神的な労力を費やすことになります。



