工事原価とは何か、そしてそれを構成する重要な4要素について、わかりやすく解説します。
建設業は、工事ごとに工事原価計算を行って完成工事高(収益)と比較して利益を計算します。
工事原価の正確な把握は経営管理にとって重要です。この記事を通して、工事原価の理解を深め、より効率的な経営に繋げていただければ幸いです。
工事原価とは
工事原価とは、建築にかかった原価のことです。工事原価は、建設業の会計だけで使われている科目で工事収入を得るための直接的なコストなどをあらわします。
建設業会計で用いられる科目として、建築物をつくる過程でかかった費用の合計金額のことです。一般会計の売上原価に該当します。
建築が完了すると報酬が支払われますが、報酬のための直接的なコストはすべて工事原価に含まれます。
建設業では、年内に工事が完了せずに、年をまたぐこともよくあります。一般的な会計処理とは違う勘定科目が必要になります。勘定科目としては、工事原価ではなく、完成工事原価、未成工事支出金で当期の工事原価を計算することになります。
工事原価は、材料費、労務費、外注費、経費の4つの要素で構成されています。工事原価は、工事現場で発生するすべての費用です。
建物をつくるのにかかった原価、工事で収入を得るためにかかった原価ということになります。
工事原価は、大きく分けて「完成工事原価」と「未成工事支出金」に分類されます。
完成工事原価は、すでに完成して収益が確定した工事にかかった費用のことです。
未成工事支出金は、まだ完成していない工事にかかっている費用のことで工事の進捗に応じて完成工事原価に振り替えられます。
完成工事原価
完成工事原価は、一般会計の売上原価のことです。一般的には売上原価は仕入額のうちで当期の売上高に対応する原価が計上されますが、工事原価では、仕入れて販売するわけではありませんので工事原価に含まれるものは直接要した材料費や労務費などになります。完成工事原価は、該当する年度の損益計算書に計上されます。
完成工事原価は、建築物などの工事を完成させるために発生した費用の合計で、材料費、労務費、外注費、経費の4つの要素で構成されています。
一般会計の売上原価に相当しており、該当する年度の損益計算書に計上されます。完成工事原価は、完成工事高から引くことで完成工事総利益を算出することができます。
完成した工事の売上高(完成工事高)に対する工事の原価ということになります。当該年度の損益計算書に計上されます。
未成工事支出金
未成工事支出金とは、建設業会計において、まだ完成していない工事にかかった費用や支出を一時的に集計するための仮勘定です。製造業会計の仕掛品や半製品に該当します。
その名のとおり、まだ完成していない工事のために費やしたコストのことです。未成工事支出金は、材料費や外注費、労務費など、工事完成までに発生したさまざまな支出を管理するものです。このように建設現場では年度をまたいで1年以上におよぶ工事が多いために、他の業界と異なる会計処理が必要になっています。
未成とは、まだ完成していないことです。未成工事支出金は未完成の工事にかかった工事原価のこととなります。まだ完成していない工事にかかった費用や支出を一時的に集計するための仮勘定です。製造業・工業簿記における仕掛品に該当します。翌年度以降に繰り越して計上します。
工事原価の4要素とは
工事原価を構成する4要素は、「材料費」「労務費」「経費」「外注費」の4つになります。
工事原価とは、建築物をつくる過程でかかった原価のことであり、会社の利益率や原価率を出すために必要な勘定科目です。
工事原価は、発生の形態によって4つの要素に分類されます。建設業では外注費が工事原価の多くを占めているという特徴があります。
工事原価は、主として完成工事原価と未成工事支出金の2つに分けられています。完成工事原価は、その年度中の会計で損益計算書の計上に含まれますが未成工事支出金はその翌年度に繰り越されて計上されます。
材料費
材料費は、工事に使う材料を仕入れた時に発生する費用のことです。工事に要する材料や素材のことです。
材料費は直接材料費と間接材料費にわかれます。直接材料費は当該の工事を目的とする材料費、間接材料費は当該の工事だけを目的としない複数の工事などで使う材料費です。
工事に直接要する材料としては、材木や鉄筋、セメント、ガラス、砂利などがあります。特定の工事に直接的に使われる材料は直接材料費となります。
直接材料費の以外に特定の工事だけでなくて複数の工事で使う塗料、接着剤や工具も固定資産にならないものも含まれます。
複数の工事で使われる材料などや工具類は間接材料費となり工事原価に入りません。複数の現場で使用するために購入した機械類や材料は間接材料費であり、全額を工事原価に含めることはしません。間接材料費は、当該工事で使用したと見込まれる分だけを工事原価に入れます。

労務費
労務費は、工事で作業などをする人員の賃金や給料、福利厚生費、手当などのことです。工事の作業者に対して支払う給料や福利厚生費のことになります。
工事で働く作業員にかかった費用はすべて労務費として工事原価に入ります。工事に関わっていれば、雇用形態による区別はありません。正社員やパート、アルバイト、日雇いなどすべてが入ります。
工事の現場で作業していない事務員や管理職の給料や手当などは工事原価に入りません。工事に関わらない事務員の賃金、福利厚生費などは工事原価に含まれません。
経費
経費とは、ほかの3要素のいずれにも該当しない、工事に要するさまざまな費用のことになります。経費は、材料費、労務費、外注費のいずれにも該当しない費用の総称です。 工事に直接関係する支出で、ほかの3つの費用に分類できないものは経費として処理します。
たとえば、設計費、現場の動力用水道光熱費、スマホやタブレット、パソコンの通信費、建設機械のメンテナンスの費用、建設機材の減価償却費などが入ります。工事現場に車で行く場合の駐車場代、ガソリン代なども経費として計上できます。このように通信交通費も計上できます。

外注費
材料費、労務費、経費の3つ以外に建設業会計では外注費があります。建設作業などは外注することが多いので工事原価においては外注費が多くを占めるためです。外注費も工事原価の一部です。
工事に関係の作業などを外部に委託して代金を支払った場合は、外注費として計上して、工事原価に含めます。
外注費と労務費の区別はあいまいなことが多くて処理が難しいこともありますが、工事に関連する作業をほかの業者に依頼した場合は、費用を外注費として計上できますが、材料は支給して工事だけを外注した場合は、外注費ではなく労務費の中の労務外注費として処理することになります。作業員が派遣の場合も外注費ではなく労務外注費として計上することになります。
建設業では、建設業務そのものや部材の加工を外注することが多いので、外注費がかかります。工事原価の中で外注費が占める割合は非常に大きいため、外注費を正確に把握することで、工事原価全体を正確に把握できることになります。
まとめ
工事原価は、主に次の4つの要素で構成されています。これらの要素を適切に管理することが、工事全体のコスト管理を行うことができます。
材料費:工事に使用する材料(木材、鉄筋、コンクリート、砂利など)の購入費用、運搬費用、保管費用などを含みます。
労務費:工事に直接従事する作業員の賃金、手当、社会保険料などの人件費です。
外注費:工事の一部を他の業者に委託した場合に発生する費用です。専門工事(電気工事、設備工事など)を外注する場合などが該当します。
経費:上記の3要素以外で、工事の遂行に必要な費用です。
- 具体的には、次のようなものが含まれます。
- 現場経費:現場事務所の賃借料、光熱費、通信費、消耗品費など
- 機械経費:建設機械のリース料、燃料費、修理費など
- その他経費:設計費、測量費、運搬費(材料費に含まれないもの)、保険料など
これらの4要素は、さらに「直接費」と「間接費」に分類することができます。
直接費:特定の工事に直接的に紐づけられる費用(例:その工事で使用した材料費、その工事に従事した作業員の労務費)
間接費:複数の工事に共通して発生する費用で、各工事に按分して配賦される費用(例:現場事務所の賃借料、機械のリース料)
建設業会計の特徴
建設業の会計は、着工から完成まで長期間になることから、勘定科目に違いがあります。
完成工事高、完成工事未収入金などが設けられています。
- 建設業会計の勘定科目の概要は次のようになります。
- 完成工事高:一般会計の売上高にあたります。
- 完成工事未収入金:一般会計の売掛金になります。
- 完成工事原価:一般会計の原価にあたります。
- 未成工事受入金:一般会計の前受金になります。
- 工事未払金 一般会計の買掛金にあたります。
工事現場ごとに原価を計上して管理することも特徴となっています。