建設業などで税務調査の悪質とは?悪質の具体的事例やペナルティについて

コラム

税務調査では、単なる申告ミスや経理処理の誤りと、意図的な不正行為とは区別されます。悪質と判断された場合には、重加算税などの重いペナルティや、場合によっては刑事告発になることもあります。

今までの経験も含めた建設業などにおける悪質とされるケースや国税庁から発表されたケースに基づいた具体的な事例、そしてペナルティ、回避や救済の方法を詳しく解説します。

税務調査の悪質とは

税務調査における悪質とは、単なる申告の誤りではなく、意図的に税負担を免れようとする行為のことです。

国税通則法第68条および第70条では、不正行為に対して重加算税が課される旨が規定されています。

  • 税務調査で悪質と判断される具体的な例としては次のようなものがあります。
    • 売上除外(売上伝票や請求書を意図的に処理しない)
    • 架空経費の計上(存在しない下請業者や材料費を計上)
    • 二重帳簿の作成(税務署向けと社内用で異なる帳簿を作る)
    • 架空人件費(実在しない職人や家族名義の給与支払い)
    • 虚偽の説明・書類改ざん

こうした行為は、「過失」ではなく「意図的」「計画的」なものと判断されるために悪質性が高いと判断されます。

建設業の場合の悪質とは

建設業は現金取引が多く、下請や外注との取引関係も複雑なために税務調査でも特に注意して調べられます。次のようなケースが「悪質」とされやすいケースです。

・現金売上を銀行口座に入れず、そのまま除外している。
・外注費として支出を装い、実際には自社の経費や個人的な支出に流用している。
・領収書を使い回し(別現場の経費を重複計上)ている。
・架空の外注業者を作って経費を増やしている。
・工事原価台帳を改ざんして原価率を不自然に操作している。

工事原価台帳とは、個別の建設工事にかかった費用(原価)を詳細に記録・管理するための台帳のことです。

建設業の場合、現場ごとの収支が不明確な場合が多かったり、日当・材料費が現金支払いという特徴があるために、悪質性を判定されたりすることがあります。

隠匿や虚偽の説明をした場合

税務調査で、帳簿や証拠を隠したり、虚偽の説明をした場合には、国税通則法第68条(重加算税)に該当します。

たとえ脱税額が少なくても、隠ぺい・仮装と認定されれば重加算税(原則35%)が課されます。

さらに、調査で改ざんや虚偽説明が発覚した場合には税務署の信頼を著しく損なうため、次のような扱いになることがあります。

・税務署が悪質と判断し、告発(刑事事件化)を検討
・翌年以降も重点調査対象となる
・青色申告の承認が取り消される可能性(所得税法第150条)

確信犯の場合は

確信犯的に不正を行っていた場合は、単なる重加算税だけでなく、刑事告発の対象となることがあります。

  • 刑事処罰の根拠は、所得税法第238条・法人税法第161条・消費税法第64条などにあります。
    • 所得税法第238条:1年以下の懲役または50万円以下の罰金
    • 法人税法第161条:5年以下の懲役または500万円以下の罰金
    • 消費税法第64条:5年以下の懲役または500万円以下の罰金

これらは、脱税額が多いからではなく、意図的に虚偽申告をしたかどうかによって判断されます。

悪質な場合のペナルティ

悪質な隠蔽・仮装行為(脱税)が認定された場合、次の行政上のペナルティ(追徴課税)が科されます。

重加算税(国税通則法第68条)

最も重い加算税で、隠蔽・仮装行為に対して課されます。

・過少申告の場合は税率35%で増差となり、本税(本来納めるべき税額と申告した税額の差額)に課せられます。

・無申告の場合は税率40%で納付すべき本税に対して課税されます。

重加算税は、本来納めるべき税金(本税)に上乗せして課されます。

延滞税(国税通則法第60条)

納期限の翌日から完納する日までの日数に応じて課される利息に相当する税金です。悪質な脱税の場合、本税額が大きくなって調査期間も長期化しやすいために延滞税の負担も大きくなってしまいます。

脱税で逮捕されるケース

脱税で逮捕になるケースは、個人事業主よりも法人代表者や建設会社経営者に多く見られます。国税庁は毎年、「告発事例」を公表しています。

https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2024/sasatsu/r05_sasatsu.pdf

令和5年度では、検察庁に告発した件数は101件、脱税総額(告発分)は89億円となっています。

国税庁では悪質な脱税者に査察調査を実施して、101件を検察庁に告発したとのことです。告発した査察事案に係る脱税総額は89億円であり、1件当たりの脱税額は88百万円でした。告発率は66.9%となっています。

消費税事案、無申告事案、国際事案のほか、社会的波及効果の高い事案を積極的に告発したとなっています。

次のような事案が国税庁から報告されています。

・同一の高級腕時計のシリアルナンバーや不正に入手したパスポートの写しを用いて書類を偽造することで、架空の課税仕入れ及び架空の輸出免税売上を計上していた事案

・コンビニで販売していた免税商品について、虚偽のパスポート情報を用いることで、架空の輸出免税売上を計上していた事案などの不正受還付事案

・アフィリエイト事業により収入を得ていたにもかかわらず、虚偽のコンサルティング契約書を準備するなどして所得を隠匿した上で、確定申告書を提出していなかった事案

・脱税のために虚偽の経費を計上するスキームを節税とうたって、広く納税者に利用させていた脱税請負人事案

・違法な方法で未公開株式を売却して得た収入を海外法人の収入と装っていた大規模な事案

回避するための対処法

悪質と判断されないためには、次の点が重要になります。

帳簿と領収書の整備

建設業などで現金取引が多い場合でも、必ず領収書や支払証明を残すように保管します。

外注費・人件費の裏付け資料を保存

支払先の請求書・振込記録・契約書などをすべて保存します。

修正申告を自発的にする

不備などを見つけた場合は、税務署からの指摘前に修正すれば、重加算税を回避できます(国税通則法第66条第4項)。

救済措置

  • 重加算税などが課された場合でも、次のような救済措置が認められています。
    • 異議申立て(国税通則法第75条):調査結果に不服がある場合、原処分庁に異議を申し立て可能。
    • 審査請求(国税通則法第77条): 国税不服審判所に対して正式に審査請求を行う。
    • 再調査・取消訴訟:行政訴訟を通じて、課税処分の取消しを求めることも可能。

ただし、救済が認められるのは隠ぺい・仮装の事実認定に誤りがある場合に限られます。意図的な不正が明白なときは難しくなります。