建物や構造物の安全性を確保する「アンカー工事」ですが、「アンカー工事を請け負う場合、建設業許可が必要なのか?」という疑問は、現場でもよく質問されるテーマです。行政書士の立場から、アンカー工事の定義や建設業法上の区分、許可が必要な場合と不要な場合、関連する資格、そして広島県における業者数について詳しく解説します。
アンカー工事とは?
アンカー工事とは、コンクリート構造物や岩盤などに金属製のアンカー(固定金具)を設置する工事をいいます。
- アンカーは、建物や設備、機械などを安全に固定するために使用されて次のような場面で広く用いられています。
- 建物の柱や梁などの構造物を固定する
- 太陽光発電設備や看板、フェンスの基礎固定
- 機械器具やタンクの据付時の固定
- 斜面の崩壊防止(ロックボルト)
アンカーの種類としては、あと施工アンカー(ケミカルアンカー、メカニカルアンカー)と埋込みアンカーがあります。
「あと施工アンカー」は、既存のコンクリートに穴をあけて接着剤などで固定するため、施工精度と安全管理が非常に重要です。コンクリートなどの硬化した母材に後から穴を開け、アンカーボルトを挿入し、孔壁に固着させる工法やその製品のことです。

建設業法でアンカー工事は何工事?
とび・土工・コンクリート工事業
アンカー工事は、建設業法上の29業種のうち、「とび・土工工事業」に該当するのが一般的です。
国土交通省の「建設業の業種区分の解釈運用」では、「「あと施工アンカー工事」は、とび・土工工事業に該当する。」とされています。
ロックボルトなど地盤の安定化を目的とする場合は、「とび・土工工事業」に含まれるほか、地盤補強や斜面対策を伴う場合は「土木一式工事」との関連もあります。
機械器具設置工事業
機械器具の組立てや工作物への取付けを行う工事に付随するアンカー工事は、機械器具設置工事業に該当する場合があります。
該当する工事例としては、発電設備、エレベーター、プラント設備などの大規模な機械器具を設置し、その組立てや設置に伴って一体的に行われるアンカー工事などです。
その他のアンカー工事
アンカー工事の内容が、建築物内部の軽微な金物固定(棚、手すり等)などにとどまる場合は、「内装仕上工事」や「金属工事」に該当するケースもあります。
アンカー工事の規模・用途・目的によって業種区分は変わるために請負内容に応じて適切な判断が必要です。わからない時は行政書士などにご相談ください。
ポイントは、アンカー工事が主たる工事か、他の工事の付随作業か、そして工作物と一体化するかどうかで判断が分かれることです。単に既製品をアンカーで固定するだけの場合は、「とび・土工・コンクリート工事業」に該当することが多くなります。

建設業許可とは
建設業許可とは、一定規模以上の建設工事を請け負う際に必要となる国または都道府県の許可制度です。
建設業法第3条によって、次のいずれかに該当する場合には建設業許可が必要と規定されています。
・1件の工事の請負金額が500万円(税込)以上(建築一式は1,500万円以上または延べ面積150㎡以上の木造住宅)の場合です。
・下請けとしても上記金額を超える場合
アンカー工事を単独で請け負う場合であっても、請負金額が500万円(税込)以上であれば許可が必要になります。
また、許可を受けるには「経営業務の管理責任者」「営業所技術者」などの人的要件のほか、財産的基礎(資本金500万円以上など)が要件として必要になります。
広島県内に営業所があるのであれば、広島県の建設業許可を取ることになります。
広島県庁建設産業課
広島市中区基町10番52号
電話:082-513-3822
なお、建設業許可には「大臣許可」と「知事許可」の2つがあります。営業所が2つ以上の都道府県に営業所がある場合は国土交通大臣許可となり、広島県のみに営業所がある場合は広島県知事許可が必要となります。どちらの許可でも、工事を施工できる地域に制限はありませんが、許可を受ける種類と窓口が異なります。
建設業許可が不要な場合
- アンカー工事も建設業許可が不要となるのは、次のような場合です。
- 1件あたりの請負金額が500万円(税込)未満の軽微な工事
- 自社の敷地内のみで行う自家施工(他人から請け負わない)
- アンカー取付を機器据付工事の一部として下請けするが、全体金額が軽微である場合
ただし、アンカー工事は安全性にかかわる場合が多く、たとえ金額が小さくても施工品質の管理責任は重くなり、元請業者から「建設業許可を持つ業者であること」を条件に発注されるケースも多くあります。
アンカー工事の資格
アンカー工事に関しては、法的に必須の国家資格はありませんが、施工品質を確保するために、次のような資格・講習を取得しておくことが望まれます。
・あと施工アンカー施工士(公益社団法人日本建築あと施工アンカー協会)
・あと施工アンカー主任技士(上位資格)
・登録あと施工アンカー基幹技能者(国交省認定制度)
・建設業の専任技術者資格(とび・土工工事業)としての実務経験
特に、公共工事や大型建築物では「あと施工アンカー施工士」の資格者配置を求められる場合があります。
広島のアンカー工事業者数
広島県内で「とび・土工工事業」の建設業許可を受けている業者は、約5,000社前後(令和6年時点)とされています。
この中で、アンカー工事を主たる業務として掲げる事業者はその一部に過ぎませんが、広島市・福山市・東広島市を中心に、あと施工アンカー工事を専門に行う会社が多数あります。
建築・耐震補強・太陽光関連などで需要が増加しており、広島県建設業協会や各市の公共工事入札参加資格名簿でも、アンカー工事を得意とする登録事業者が確認できます。
広島県でもアンカー工事の需要は増加傾向にあります。将来的に公共工事や元請との取引を広げたい場合は、「とび・土工工事業」の建設業許可取得を検討することをおすすめします。



