建設業における法定福利費は、労働者の福利厚生の費用であり、見積書の作成で適切な計上をすることになっています。法定福利費の基本から、建設業に特有な事情、見積書への明記の理由、具体的作成手順、作成時の注意点などを詳しく解説します。
法定福利費とは
法定福利費とは、企業が法律に基づいて負担しなければならない社会保険料のことです。
法定福利費は次の4つが該当します。
健康保険料(協会けんぽや組合健保)
従業員の医療費などを保障するための保険料です。
厚生年金保険料
従業員の老後の生活を保障するための年金保険料です。
雇用保険料
従業員の失業時の給付や再就職支援のための保険料です。
労災保険料
業務上の災害や通勤災害による負傷、疾病、死亡に対する保険給付のための保険料です。
介護保険料
40歳以上の被保険者が対象になります。
これらの保険料のうちで労使で折半されるものもあります。企業側負担分が「法定福利費」として会計処理されています。
これらの費用は、従業員の生活の安定や安全を守るために不可欠であり、企業は法令に基づいて適切に負担する必要があります。
企業が従業員を雇用しているのであれば、支払いは法律上の義務であり、未払いは社会保険未加入や違法になります。
建設業の法定福利費について
建設業では、長いあいだ法定福利費が見積書や契約書に反映されていないことが問題となってきました。下請け業者が社会保険に加入していても、その保険の費用が元請け側から支払われなければ、下請けの経営が圧迫して、保険未加入ということが散見されたためです。
建設業は、元請業者から一次下請、二次下請へと多重に下請構造があるのが一般的です。このような構造で、事業者が法定福利費を適切に負担して、末端の労働者までその恩恵がいき渡るようにする必要があるためです。
また、建設現場は場所が変わりやすく、労働者が複数の事業者を渡り歩くことも少なくありませんので、どの事業者が雇用している期間であっても、労働者の福利厚生が適切に保障される仕組みが求められています。
さらに、 建設業では、技能労働者の高齢化がすすんでおり、健康保険や介護保険といった社会保険の重要性が増しています。
国土交通省は建設業の健全な発展のために公共工事だけでなく民間工事においても法定福利費の明示を義務付ける指導をしています。
- 国土交通省は次のような指針を出しています。
- 法定福利費を見積書に明記すること
- 契約書にて法定福利費の内訳を確認すること
- 見積段階での「別途請求」や「込み価格」を避けること

法定福利費明記の理由
見積書に法定福利費を明記することは、次のような理由があります。
社会保険加入の促進
事業者が正当に法定福利費を請求できるようになることで、未加入業者の排除や是正が推進されています。
透明な費用の実現
元請けや下請けの間での見えにくい費用が明確になって、適正価格での受発注になります。法定福利費を明確に記載することで、発注者に対して費用の内訳を透明化して、納得感を与えることができます。
働き方改革
法定福利費の適正支払いは、労働者の処遇改善や健康保険や年金制度の安定にもなります。
見積書作成手順
建設業における見積書作成の中で、法定福利費を反映させるには次のような手順が必要になります。
労務費の算出
現場で必要となる作業員の人数と作業時間をもとに、労務費(賃金)を算出します。
法定福利費の計算
労務費に対して会社負担となる各種保険料を計算します。国交省が提示する「法定福利費の算出モデル」では次のような目安が使われています。
保険項目 | 企業負担率(概算) |
---|---|
健康保険 | 約5.0% |
厚生年金 | 約9.1% |
雇用保険 | 約0.6% |
介護保険 | 約0.9%(該当者のみ) |
(例)労務費が1,000,000円なら、法定福利費はおおよそ150,000円前後になります。
健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料:労務費にそれぞれの保険料率(事業主負担分)を乗じます。
雇用保険料は、労務費に雇用保険料率(事業主負担分)を乗じます。
労災保険料は、労務費に労災保険料率(事業の種類によって異なる)を乗じます。
明細への記載
見積書の中に「労務費」や「法定福利費」の項目を分けて明記し、内訳が明確になるようにします。
内訳として、各項目の金額を記載するようにします。記載場所は、労務費とは別に項目を設けるか、諸経費の中に含めるなどの方法があります。
見積書作成の注意点
法定福利費を含む見積書を作成する時の注意点をまとめます。
「込み々価格」にしない
人工単価にすべて含まれているという表記はしないようにします。法定福利費が不透明になって是正指導の対象にもなります。
内訳の明記
「労務費」「法定福利費」「一般管理費」などの区分を明記して相手に説明できる根拠をつくっておきます。
協力会社への指導
下請けや協力会社にも同様に法定福利費を見積もりに含めるようしてもらい、適正な支払いがなされているか確認する必要があります。
年度ごとの料率変動に注意
保険料率は年度ごとに見直されることがあるので、過去の数値を使うのではなく最新の社会保険料率を使う必要があります。
まとめ
法定福利費の見積への明記は、建設業の健全化に向けた方針です。元請や下請けを問わずに、適正な見積の作成と契約の履行によって、建設業労働者の保護と企業の信頼性向上につなげることができます。