建設業会計は、他の業種の会計と比べて特殊であり、特徴があります。特に工事原価管理を詳しく解説します。
長期的な工事契約
建設業では、工事が1年以上にわたることが多いので収益や費用をどのタイミングで認識するかが重要です。
工事進行基準
工事の進捗率に応じて収益と費用を計上します。
工事完成基準
工事が完成した時点で収益と費用を計上する方法です。短期的な工事に適用されることが多いです。
未成工事支出金の計上
建設業では、工事が完成するまで収益が確定しないために途中で発生する費用は未成工事支出金として資産計上されます。
完成工事高と完成工事原価
建設業の決算書では、売上高の代わりに完成工事高、売上原価の代わりに完成工事原価という科目が使われます。これらは、工事単位での収益性を分析するために分けられています。
工事原価の管理
建設業では、工事ごとに発生する原価を詳細に把握する必要があります。
- 主な工事原価の内訳は次のとおりです。
- 材料費(例:コンクリート、鉄骨など)
- 労務費(作業員の賃金や福利厚生費)
- 外注費(下請け業者への支払い)
- 経費(例:現場事務所の運営費、運搬費)
建設業の工事原価管理とは
工事原価管理とは、工事に発生する外注費や材料費など、原価に関係する費用を計算して管理することです。
適切に工事原価管理をすることによって、利益の減少を抑えたり、赤字を出さないようにすることができます。
建設業法によって、一定期間の会社の利益や損失を記載する損益計算書に建設工事の完成工事高と完成工事原価を計上して記載する義務があるので原価管理は必要になります。
建設業の原価管理については、工期や資材価格の変動が多いために正確な原価を管理することは難しいというのが実態です。
工事原価管理のメリット
工事前に利益を計算して赤字を回避できます。利益の少ない工事から撤退する判断基準になります。
建設業は、工事の原価を管理することによって資材の仕入れの材料費や外注費、そのほかの経費など、発生する各費用を管理できます。
工事原価管理が難しい理由
特殊な勘定科目
建設業の財務諸表は、国土交通省が定める「建設業法施行規則別記様式第15号及び第16号の国土交通大臣の定める勘定科目の分類」に従って作成します。
建設業の経理では一般的な商業会計や工業会計は使わずに建設業会計によって特別な勘定科目を使います。
勘定科目を細かく分類していかなければならないために工事原価管理が難しいとされています。
- 建設業における勘定科目の分類には、次のようなものがあります。
- 完成工事高(売上高)
- 完成工事原価(売上原価)
- 完成工事総利益(粗利益)
- 未成工事支出金(仕掛品)
- 完成工事未収入金(売掛金)
- 未成工事受入金(前受金)
- 工事未払金(未払金)
建設業会計では、一般会計と異なる勘定科目を使用します。たとえば、一般会計の「売上原価」は建設業会計では「完成工事原価」と呼ばれて材料費、労務費、外注費、経費の4つに分類されます。
建設業では工事原価を材料費、労務費、外注費、経費などの形態的に分類する方法もあります。これは、個別工事の原価計算を基礎として作成される完成工事原価報告書に規定されています。
建設業で建設のための支出を行う場合は、「建設仮勘定」を用いて仕訳します。
外注費を原価要素に加える
一般的に原価計算で使用する原価は材料費、労務費、経費の3つですが、建設業会計では外注費が入って4つとなります。
労務外注費は、外注費ではなく労務費として扱われます。建設業の原価は現場ごとに管理されて、原価計算の場合も個別原価計算に基づいて、現場別原価計算となります。
売上・原価を計上するタイミング
工事進行基準
工事の進捗に応じて、売上と原価を計上する方法です。この基準は、工事が長期にわたり、進捗状況を合理的に見積もれる場合に適用されます。
計上タイミング
売上:工事の進捗率に応じて分割して計上します。
進捗率の計算例:
実際に発生した工事原価 ÷ 見積総工事原価
または、作業量や完成部分を基に計算
原価:発生した工事原価をその都度計上します。
メリットとしては、工事の収益や費用をタイムリーに反映できて利益率が安定します。
また、長期的な工事に適しています。
注意点としては、正確な進捗率の算出が必要です。見積り誤差があると計上額に影響します。
工事完成基準
工事が完全に完了して引き渡しが行われた時点で売上と原価を計上する方法です。工事が短期間で終わる場合や、進捗率の算定が難しい場合に適用されます。
計上タイミング
売上:工事が完成し、引き渡しが完了した時点で一括計上します。
原価:工事の完了時点で一括計上します。
メリットとしては工事完成後に正確な収益と費用を把握できますし、シンプルな処理方法になります。
注意点としては工事期間中の収益が計上されないために複数年度にまたがる場合は、その年度の利益が偏る可能性があります。
- 日本の会計基準では、次の要件を満たす場合には工事進行基準を採用することが推奨されています
- 工事期間が1年以上にわたる場合
- 工事収益の合理的な見積が可能な場合
- 工事原価や進捗率の適切な管理体制が整っている場合
短期工事(1年以内の工事)や進捗率の算定が困難な場合には、工事完成基準を適用するケースが一般的です。
費用の構成
公共建築工事における工事費は、直接工事費、消費税等相当額、共通費の3つがありますが、これらは公共建築工事積算基準で定められています。
共通費は、建物を建てることには直接関与しない建設する際に必要となる間接的な工事費のことです。
共通費は、国土交通省の公共建築工事共通費積算基準により一般管理費等、現場管理費、共通仮設費の3つに区分されています。